感想ノート

観劇の感想など。一部ネタバレしてます。

君のいない1年間

5年間ずっと私の世界の中心にいた人が、姿を消した。
去年の今日のことだった。
今でもまだ信じられなくて、たまにブックマークから消せてない彼のブログのアドレスを押す。もちろん、開いたページにあるのは「お探しのページは表示できません」という言葉で、やっぱり本当なんだと痛感する。

彼はいわゆる「若手イケメン俳優」だった。きっと、本人はそう言われるのを心底嫌っていただろうけど。でも、事実若手俳優で顔もイケメンのほうなのだから仕方がないじゃないと私はずっと思っていた。ファンにとっては推しが世界一かっこいいのだ。

彼は2.5次元ミュージカルがここまで大きくなる少し前くらいに、そういう作品に出始めて、私はそこで好きになった。アニメのキャラクターをそのまま演じるのではなく、自分なりの解釈で、舞台でしか表現できないキャラクターを演じたいというのが、彼のモットーで、私はそういうところが大好きだった。(言葉が足らないことが多くて、たまに誤解を生んでたけど、そういう不器用なところも好きだった。)

そうやって、多くの若手俳優と同じように、登竜門と呼ばれる某ミュージカルに出演して、卒業して、少しこれまでとは毛色の違う作品に出始めて、これからというタイミングで、去年の今日、事務所を辞めた。引退は明言はしていない。でも、今日まで音沙汰はない。だけど、私は帰ってくると思っている。もちろん確証なんてどこにもないので、これは私のファンとしての第六感がそう告げているというしかない。帰ってくる。

でも、それでもこの1年間はとても辛かった。
最初の3ヶ月くらいは、関係ないのはわかっているのに、自分を責めた。

実は予兆はあったのだ。
辞める前の最後の1年は、他の事務所のイベントのゲストが1回と、自分の事務所の1週間のイベントと握手会しか仕事をしなくて、ブログは2月で止まっていた。

それにもかかわらず、実はその年の春から夏にかけて、私は初めて他の子にうつつを抜かしていた。アイドルだった。
具体的には書かないけど、握手会が頻繁にあって、すぐ顔も名前も覚えてくれるのが嬉しくて、一生懸命会いに行った。だけど、楽しいのは最初の2ヶ月だけだったと思う。会いに行けば行くほど、もっともっとと求められるのが苦しかった。周りのファンとのファンサービスを競い合うのが面倒だった。そのうち、知りたくもなかった彼のプライベートが流出した。

結局、アイドルくんに出会って半年も経たずして、私はついに限界を迎えて、ファンを辞めたのだった。ステージの上で歌う姿に惹かれただけなのに、なんでステージの下のことで悩んでるんだろうと悲しくなった。

思えば彼は、私の知る限りファンを特別扱いしなかった。ファンの名前は絶対に呼ばない。たぶん全員の名前を覚えるのは不可能だからなんだと思う。かわりに握手会のときは、みんなに「ありがとうございます」と言う。腰を低くして、目を合わせて。ブログでも私たちのことを自分のファンとは呼ばない。お客様と呼ぶ。とてもドライに見えるけど、私はそんな潔い彼がとても好きだった。ファンに優劣をつけないのが彼のファンへの愛なのだと思ってた。ちなみに、プライベートが流出したこともない。アイドルちゃんのファンは2ヶ月で苦しくなったのに、彼のファンになってから6年経った今日まで、私は彼のファンで嫌な思いをしたことがない。

彼の最後のお仕事は握手会だったんだけど、そのときはもちろんまだ事務所やめることら知らなかった。だから、ありがとうって言えなかった。ちょうどアイドルにうつつを抜かしていたので、アイドルの握手会と同じで10秒くらい喋れる気でいたら1秒しかなくて、名前も呼べなかった。たぶん、流れが速すぎて彼も何も言ってこなかった。

だから、辞めるのを知ったとき、すごく後悔した。全然1ファンである私のことなんて関係ないところでことが進んでいるんだけど、だけど、私にバチが当たったんだと思った。芸能界、なかでも彼のいた若手俳優界なんて、流れが速すぎて、確実に次があるなんてわからないといつも思っていた。だから、ひとつひとつのお仕事といつもきちんと向かい合ってきたつもりでいた。…いつもきちんと向かい合っていたかった。ずっと向かい合ってきたのに、あの握手会の日、一瞬目を離してしまった。そしたら、もう目の前にはいなかった。

彼はいい景色を見せてくれてありがとうと言っていなくなった。それは、ランキング形式の某舞台で、彼が1位になったときに言った言葉と同じだった。そのときはまた見たいと言っていたけど、今回は見たいとは言ってなかった。でも、もう見ることはないとも言わなかった。

言わなかったから、信じることにした。帰ってくる。必ず。だって彼はいつも、板の上でお客様をお待ちしていますと、私たちに言っていたから。(続けて、だから仕事や学校がある人は無理しなくていいよと言ってくれる優しい人なのだ。)

そして重い重い愛を誓った。もう誰のファンにもならないと。一瞬でも目を離したくないと思ったのだ。


というものの、とにかく彼のいない人生は暇すぎて、他に趣味もないので、結局この1年間も芝居ばっかりを観ていた。
前からのお気に入りの役者さんだったり、初めましてだったり、いろんな役者さんを観て、また観たいと思う役者さんも何人かいた。だけど、彼にしたように手紙を書く気になれなかった。他の人のファンにならないという誓いを破ったら、彼に二度と会えない気がした。
あと、誰かのファンになるのが怖かったのだ。だって、私たちファンと彼らの関係は永遠ではないと知ってしまったから。彼らが役者をやめると決意してしまえば、もう私たちはなにもできない。

そうして、今日を迎えた。


結論から言うと、壮大なことを考え、えらそうなことを誓ったくせに、私は先日他の子のファンクラブにちゃっかり入った。薄情者だと思われるかもしれない。でも、私はどうしてもその子の未来がほしかった。その子にずっとこの世界にいてほしいと思った。そのときに、自分にできることは、やっぱりお金を出すことしか思いつかなくて、それがファンクラブの会費だった。


今年も若手俳優界含め、いろんなジャンルでファンと芸能人の別れがあったと思う。その度に、多くのファンの子が私はなにもできないと泣いていた。去年の私と同じで、こっそりわかるわかると頷いていた。でも、この辛く苦しい1年で少しだけわかったことがある。いなくなっても、いた日々のことは変わらないのだ。

私の大好きな某排球漫画のなかで、某木兎さんがこう言っている。(少しも伏せられてない。)

「その瞬間があるかないかだ。将来がどうだとか、次の試合で勝てるかどうかとか、一先ずどうでもいい。目の前の敵ブッ潰すことと、自分の力が120%発揮された時の快感が全て。……まぁそれはあくまで俺の話だし、誰にだってそれが当て嵌まるワケじゃねぇだろうよ。お前の言う「たかが部活」ってのも、俺はわかんねえけど、間違ってはないと思う。ただ、もしも、その瞬間が来たら、それが、お前がバレーにハマる瞬間だ。」

ファンもそういうことだと思うのだ。
将来がどうとか、いつか辞めてしまうのではないかとか、一先ずどうでもいい。全通したりブロマイドを買ったり、手紙を書いたりして、目の前の舞台で集客力を見せつけることと、舞台上の彼を観ているときの快感が全て。……まぁそれはあくまで私の話だし、誰にだってそれが当て嵌まるわけじゃないだろうけど。「行けないけど応援しています。」も「好きだけどブロマイドはいらない」も「接触以外は行かない」というのも、私にはわからないけど間違ってはいないと思う。私にはわからないけど。だけど、私は快感を知ってしまった。某ミュージカル卒業後のある舞台で、彼が化ける瞬間を観てしまった。そして、交じり合うことはないと思っていたのに、彼とファンが同じ景色を見つめた瞬間に出会ってしまった。もうこの瞬間を知ってしまったから、もう二度と忘れることはできないのだ。脱退しようが、引退しようが、結婚しようが、その瞬間だけは事実で、誰にも侵せないものなのだ。
だから、私は他の子のファンクラブ入り、円という愛の単位で想いを伝えることを再度始めたわけだけど、1ミリも彼への想いは揺らいではいない。例え、帰ってこなくても。いや、帰ってくるけども。

長々と書いたけど、私が言いたいことは結局ただひとつしかない。
どんなにクソ事務所でも、どんなにクソ舞台でもいい。もう空の写真だけのブログでも文句言わない。ツイッターはやらなくていい。カーテンコールのあと真っ先に袖に引っ込んでも怒らない。だから、

だから、

「また、板の上で会いましょう」